家庭における高齢者の事故を未然に防ぐ
お風呂での対策ポイント
近年、高齢者の入浴事故が大きな社会問題となっています。特に冬場になると増える「ヒートショック」による急死や浴槽での溺死。ご存じの方も多いかもしれませんが、実はこの“家のお風呂”で起こる入浴中の死亡事故や重篤事故が、交通事故死をはるかに上回る数にのぼっています。大切な家族が毎日使うお風呂だからこそ、「安全かつ快適」に入浴できる環境づくりは急務です。
本コラムでは、リフォームのプロの目線から“高齢者のお風呂事故防止術”をわかりやすく解説していきます。実際の工事で得た知見や、国や自治体の補助制度の情報、さらに簡単にできる対策のアイデアまで幅広くお伝えします。ぜひ参考にして、安心して冬の入浴を楽しめる住まいづくりを目指してみてください。
「溺死」という言葉を聞くと、海水浴や川遊びをイメージしがちですが、実は家庭の浴槽で起こる溺死者数は、冬に圧倒的に多いのです。最も少ない9月と比べて、1月の溺死者数はなんと約9.6倍にもなる、というデータがあります。
冬にお風呂での溺死が増える原因としては、「ヒートショック」が大きく関係しています。暖かい居間などから寒い脱衣室・浴室に移動すると急激に血圧が上昇し、さらに湯船に入った瞬間に今度は血圧が急低下して意識を失う……。そこで溺れてしまうパターンが非常に多いのです。
●ヒートショック↙CHECK!
ヒートショックとは、温かいお風呂に入ったり、熱いシャワーを浴びたりした際に、急激な温度変化によって血圧が急上昇または下降し、意識を失ったり、最悪の場合、心臓発作や脳卒中を引き起こす危険な現象です。高齢者は血管が硬くなっているため、若い世代に比べてヒートショックを起こしやすく、注意が必要です。
ヒートショックとは、室温差によって起きる血圧の急変動のことを指します。
特に冬の入浴では、
という大きな血圧変動が起きやすいのが特徴です。血管が強く収縮・拡張を繰り返すと、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こすこともあり、さらに気を失って浴槽で溺死する危険性が高まります。
入浴中の事故は、溺死だけではありません。脳血管障害や心疾患による突然死も多く、消費者庁の推計では年間1万9,000人にものぼるといわれています。これは、年間の交通事故死者数(約2,600〜2,700人)の7倍以上という驚くべき数字です。しかも救急搬送後に重い後遺症が残り、要介護や車椅子生活となるケースも多数発生しています。
●温暖エリアで死亡率が高い
「寒い地域ほどヒートショックが起きやすい」というイメージがあるかもしれません。しかし実際には、栃木や茨城など北関東の県に続き、愛媛、鹿児島、宮崎などの温暖な地域ほど冬の死亡率が高い、という統計データがあります。
一方で、北海道や東北地方は寒さが厳しい地域でありながら、冬季死亡増加率は意外にも低い傾向にあるのです。
なぜ温暖地域ほどリスクが高いのか? 一因としてよく挙げられるのが「高断熱住宅の普及率の差」です。北海道や青森などの極寒地帯では、昔から暖房設備や断熱性能をしっかりと整えた住宅づくりが進んでおり、室温差が少ない環境が実現しやすいという背景があります。
一方で、比較的気候が穏やかな地域は「そこまで気密・断熱に気を遣わなくても大丈夫だろう」と考えられがちで、実際に足元が冷える家が多い傾向にあります。結果として室内の寒暖差が大きく、ヒートショックが起こりやすい環境になっているのです。
消費者庁も、入浴事故防止のために以下のような対策を呼びかけています。まずは“リフォームなし”でも、気をつけるだけでリスクを下げられる基本対策をおさえましょう。
これらは費用負担なしに手軽に実行できる対策です。特に脱衣所・浴室を暖めるために、小型ヒーターや暖房機能付き換気扇などを導入すると、体感温度の大きな差を減らせるので効果的です。まずはこれらの対策を徹底してみてください。
在来工法のタイル張り浴室は、外壁との間に断熱材が少なかったり、漏水や気密の問題などでどうしても寒さがこもりやすい構造です。こうしたお悩みをお持ちの方は、ユニットバスへのリフォームを検討してみましょう。ユニットバスは断熱と気密に優れた構造になっており、冬場でも浴室が冷えにくく、お湯が冷めにくいのが大きな特徴です。
さらに、断熱材を充填した高断熱浴槽を選べば、家族の入浴時間がずれても追い焚きを何度も行わずに済み、光熱費の削減にもつながります。「浴室を暖かくしたい」「冷たくなったお湯を何度も温め直している」という方にはぴったりの改善策です。
●お風呂の安全性をさらに高めるために
お風呂の事故を防ぐには、ヒートショック対策だけでなく、転倒や立ちくらみによる転落などにも備える必要があります。そこで、以下のようなリフォームアイテムも有効に活用しましょう。
●手すりの設置↙CHECK!
浴室の入り口、浴槽の縁、洗い場など、高齢者が立ち上がったり、移動したりする際に掴まりやすい場所に手すりを設置しましょう。手すりは、滑りにくい素材で、しっかりと固定されているものを選びましょう。また、手すりの高さは、高齢者が使いやすいように、身長に合わせて調整することが重要です。
●浴室温度の管理
脱衣室と浴室の温度差が大きいと、ヒートショックを起こしやすいため、浴室の温度を適切に管理することが重要です。浴室の温度は、冬場でも20度以上、夏場でも30度以下に保つようにしましょう。また、脱衣室にも暖房器具を設置したり、湯冷ましをしてから入浴したりするなど、温度差を小さくする工夫をしましょう。
●滑り止めマットの使用
浴室の床は、水滴で滑りやすくなっています。高齢者が転倒しないように、滑り止めマットを敷きましょう。滑り止めマットは、吸盤付きや、ゴム製など、様々な種類があります。浴室の床の素材や、高齢者の足のサイズに合わせて、適切な滑り止めマットを選びましょう。
●システムバスの導入効果
●低い浴槽の利点
システムバスには、高齢者が安全に出入りしやすいように、浴槽の縁が低く設計されているものがあります。また、浴槽の底が滑りにくい素材でできているものや、手すりが標準装備されているものもあります。高齢者が安心して入浴できるよう、システムバスの導入を検討しましょう。
●湯温調整機能
システムバスには、湯温を自動で調整してくれる機能が搭載されているものがあります。湯温調整機能があれば、高齢者が自分で温度調節をする必要がなくなり、ヒートショックのリスクを軽減できます。また、湯温を一定に保つことで、快適な入浴時間を過ごすことができます。
●滑りにくい床材
システムバスの床材には、滑りにくい素材が使われているものがあります。高齢者が転倒しないように、床材の素材にも注意しましょう。また、床材の表面に凹凸があるものや、吸水性の高い素材で作られたものも、滑りにくく安全です。
●段差解消・バリアフリー
浴室の入り口や脱衣所の床など、ちょっとした段差がヒヤッとする原因に。高齢者が暮らす家では、少しの段差でも見直すことが重要です。
冬場の入浴前に浴室全体を温めておくことで、ヒートショックリスクを下げます。さらに洗濯物の乾燥にも使えるため、日常生活の快適度がアップします。
✅お風呂の安全チェックリスト
定期的に、お風呂の安全性をチェックすることが重要です。
以下は、お風呂の安全チェックリストです。
✅手すり:しっかりと固定されているか、滑り止め加工がされているか
✅床:滑り止めマットが敷かれているか、床材が滑りにくい素材であるか
✅浴槽:縁が低く、高齢者が安全に出入りできる高さであるか
✅照明:十分な明るさがあるか
✅換気:換気扇が正常に動作しているか
✅水温:適切な温度に設定されているか
✅シャワー:水圧が強すぎないか
✅ 洗い場:滑り止め加工がされているか
✅排水溝:詰まっていないか
これらの項目をチェックし、必要があれば改善を行いましょう。
上記の対策を日常的に取り入れることは重要ですが、真にヒートショックリスクを下げるには、家全体の断熱性能を引き上げて、室温差を小さくすることが最善策です。ここでは比較的負担が少なく、効果的なリフォーム方法をご紹介します。
住宅の断熱性能を左右する最大の要因が「窓」です。冬場、暖房で暖めた空気の50%は窓から逃げると言われています。さらに、冷たい窓表面に暖かい空気が触れることで足元に冷気が降りてくる「コールドドラフト現象」が起こり、室温が下がりやすくなります。
既存の窓の内側に、もう1枚高断熱サッシを取り付ける方法です。大掛かりな工事が不要で、1窓あたり約60分程度で取り付けが可能。施工費用が比較的安く済むうえ、今ある窓をそのまま残すため浴室やトイレなどでも導入がしやすいというメリットがあります。
唯一の難点は、窓を開ける際に二重サッシを2枚開け閉めしなければならない点ですが、それを上回るほどの断熱効果が得られます。
既存の窓枠を一部カットして、新しい断熱サッシをはめ込む方法です。壁を壊さずに施工できるため工期も短く、二重サッシが煩わしいと感じる方におすすめです。施工時間は1窓あたり半日程度で、最近はこの工法を取り扱う工事店も増えています。
国は地球温暖化対策として、既存住宅の省エネ化に積極的に取り組んでいます。その一環として、高断熱窓や高断熱玄関ドアの設置に対する補助金「先進的窓リノベ事業」を展開中です。窓の大きさや断熱性能に応じて定額補助が支給されるしくみで、実質的な工事費用の50%程度が補助され、かなりの経済的メリットが得られます。「窓のリフォームはコストが高い」というイメージのある方も、今なら補助制度をうまく活用して、負担をぐっと抑えることが可能です。
高齢者が安心してお風呂に入れる環境をつくるには、
この両輪で対策を進めることが大切です。特に“家中の寒暖差をなくす”取り組みは、ヒートショック事故を予防できるだけでなく、住まいの健康度や快適性を大幅に引き上げる結果にもつながります。
そして、こうしたリフォームを検討する際には、ぜひ国や自治体の補助制度を上手に活用してください。補助金を活用することで自己負担が抑えられ、より本格的な断熱リノベや浴室リフォームに踏み出しやすくなります。
「先進的窓リノベ事業」以外にも、都道府県や市区町村ごとにさまざまな助成制度が存在しますので、地域の補助制度を調べてみるのもおすすめです。
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